「共感できる治療家」だけが信頼と結果を手に入れる理由

【なぜ“優秀な治療家ほど”共感でつまずくのか】

「共感が大事なのは分かっている。でも正直、うまくできている自信がない」そう感じたことはありませんか。実はこの悩みは、臨床に真剣に向き合っている治療家ほど抱えやすい特徴があります。

なぜなら私たちは日々、「どうすれば治るのか」「原因はどこにあるのか」といった問題解決思考で患者さんと向き合っているからです。

この思考は臨床において極めて重要であり、むしろ欠かせない能力です。しかしこの思考が強いほど、「共感」という一見曖昧で答えのないものに対して難しさを感じやすくなります。

ここでまず整理しておきたいのは、共感は才能ではないということです。センスや性格の問題ではなく、あくまで“理解の姿勢”です。そしてこの姿勢は、誰でも身につけることができます。

共感とは、相手の感情を理解し、その立場に立って感じ取ろうとすることです。

ここで重要なのは、共感は同意ではないという点です。患者さんの考えに賛成する必要はありませんし、医学的に正しいかどうかも関係ありません。

ただ、その人にとってそれが現実であり、確かに辛いことであると理解することが共感です。

この前提が抜けてしまうと、共感はただの“言葉のテクニック”になります。

例えば問診の中で「それは違います」「そんなことはありません」とすぐに訂正してしまうと、その瞬間に患者さんの感情は置き去りになります。

大切なのは正しさではなく、「理解されている」という感覚です。共感とは、治療の前に信頼関係を築くための土台であり、この土台があるかどうかでその後の臨床の質は大きく変わっていきます。

 

【共感があるだけで“結果が変わる”本当の理由】

患者さんはなぜ来院するのでしょうか。もちろん症状を改善したいという目的があります。しかしそれと同じくらい強く求めているのが「理解されること」です。

多くの患者さんは、これまでの生活の中で十分に理解されてきた経験が少ないことがあります。家族に理解されない、職場に理解されない、医療機関では流れ作業のように扱われる。そのような経験を積み重ねている方も少なくありません。

その中で、「この先生は自分のことを分かってくれる」と感じた瞬間、信頼が生まれます。この信頼は単なる感情ではありません。臨床結果に直結する重要な要素です。

リピート率、セルフケアの継続、施術への取り組み方、さらには紹介に至るまで、大きく影響します。

シオカワスクールで大切にしているインサイドアウトの考え方においても、この共感は極めて重要な役割を持ちます。

インサイドアウトとは、外側から何かを与えて変えるのではなく、内側からの変化を引き出す考え方です。そのためにはまず安心できる状態が必要です。

人は安心すると神経系が変化します。過度な緊張が緩み、副交感神経が優位になり、回復しやすい状態へと移行します。

つまり共感は単なるコミュニケーションではなく、「回復しやすい環境」をつくる行為でもあるのです。共感があるかどうかで、身体の反応そのものが変わる可能性があるということです。

 

【共感ができないのは“能力不足ではない”】

ではなぜ共感が難しく感じるのでしょうか。その理由はシンプルです。治療家の思考の順番にあります。

多くの治療家は、患者さんの言葉を聞いた瞬間に分析を始めます。「原因は何か」「どこが問題か」「どう改善するか」という思考です。この力は臨床において非常に重要です。

しかし問診では、この順番を入れ替える必要があります。本来の順番は、共感、理解、分析、説明です。この順番が崩れると、患者さんは「聞いてもらえなかった」と感じます。例えば「もう治らない気がする」と言われたときに、「そんなことはありません」と返すと、その人の不安は無視されます。

しかし「それだけ続くと不安になりますよね」と返すと、感情が受け止められます。この差は非常に大きく、信頼関係に直結します。共感は難しいことを言う必要はありません。むしろシンプルでいいのです。

相手の言葉をそのまま受け取り、その奥にある感情を言語化する。それだけで十分です。共感ができないのは能力の問題ではなく、順番の問題なのです。

 

【誰でもできる共感の“型”】

共感には再現性があります。まず一つ目はオウム返しです。患者さんの言葉をそのまま繰り返すことで、「聞いている」というメッセージが伝わります。

次に感情の言語化です。「大変そうですね」「つらかったですね」といった一言で十分です。

そして三つ目は意味の理解です。「それだけ続くと不安になりますよね」というように、状況や背景を含めて理解を示します。

この3つだけでも、患者さんは「分かってもらえた」と感じます。重要なのは、これをテクニックとして使うのではなく、「理解したい」という姿勢の中で自然に使うことです。形だけを真似しても伝わりませんが、意図が伴えばシンプルな言葉でも十分に伝わります。

 

【共感は“身体の回復力”にも影響する】

共感は単なる心理的な要素ではありません。

カイロプラクティックにおいてサブラクセーション(神経機能障害)を引き起こす3つの要素、

①Trauma:外傷的ストレス、

②Toxin:化学的ストレス、

③Thought:精神的ストレス

の観点で見ると、共感は精神的ストレスへのアプローチであり、身体にも影響を与えます。安心感が生まれると、神経系のバランスが整い、回復しやすい状態がつくられます。

これはインサイドアウトの健康観そのものです。問診の中で患者さんが自分の状態を言葉にし、それを自分で聞くことで、新たな気づきが生まれます。「これが原因かもしれない」「こういう習慣が影響しているかもしれない」という内側からの理解です。

このプロセスこそが本質的な変化を生みます。共感はその入り口です。安心して話せる環境があるからこそ、人は自分の内側に目を向けることができるのです。

 

【共感は“頑張るもの”ではない】

もし共感が苦手だと感じているのであれば、無理に共感しようとする必要はありません。おすすめは「理解しよう」とすることです。

共感しようとすると、正しい言葉を探してしまい、不自然になります。しかし理解しようとすると、自然と相手に意識が向きます。その人がどんな背景で、どんな思いで今ここにいるのかを少し想像するだけで、言葉は自然に出てきます。そして臨床で最も効果的な共感の一言があります。

それは「それは大変でしたね」です。

この一言はシンプルですが、非常に深い意味を持ちます。共感は難しいものではありません。特別なスキルでもありません。目の前の人を理解しようとする姿勢、それだけです。そしてその姿勢が、信頼関係を生み、治療環境を整え、結果を変えていきます。

共感は“できる人だけのもの”ではなく、“臨床を変える力”そのものなのです。

 

 

 

金城 寿生

執筆者金城 寿生

1989年、沖縄県生まれ。柔道整復師の免許取得後に上京。接骨院やクリニック勤務を経験。2022年東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック(旧豪州ロイヤルメルボルン工科大学 日本校)卒業。塩川スクールにてGonstead seminar修了。研修を経て塩川カイロプラクティックに入社。勤務しながら、インストラクターとしてカイロプラクター育成に携わっている。

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