カイロプラクティック・システムにおける2つの触診法とは?

静的触診

シオカワスクールで行っているカイロプラクティック・システムでは、サブラクセーションを特定する際に必要な5つの検査と分析があります。その中で重要な触診について解説していきます。カイロプラクティック・システムには2種類の触診法が存在します。

(1)静的触診

1つ目の触診法は、静的触診になります。この触診の特徴は、患者様を動かさずに脊柱と骨盤の皮膚状態の検査を行います。サブラクセーションの兆候である組織病理や筋肉病理の検査を行うのが、静的触診になります。体表の凹凸、肌の質感、温度(熱感&冷感)、しこり、筋肉の硬直、腫れ、炎症、圧痛などの軟部組織の異常の確認を行います。

カイロプラクティックでの静的触診には、浅層部と深層部の2種類が存在しています。特に浅層部の静的触診は、サブラクセーションを正確に特定する際に重要視されている検査の1つとなります。

浅層部の静的触診では、浮腫(炎症反応によって損傷した組織の修復を高めるために代謝が向上している部位)や肌の質感や体表温度などの検査を行います。深層部の静的触診では、筋肉の硬直/弛緩や圧痛などの検査を行います。

静的触診を訓練する際に大切なことは、まず正常な組織を知ることです。正常な組織が理解できて初めて異常に気付くことができます。また、常に優しい触診を心掛け、手全体で行うことで患者様に安心感を与えることができます。そして、疑わしい場所で止まらず、疑わしい場所は何度も確認することが大切になります。更に上下左右で比較し、大きさや形状を1人1人しっかりと確認することで、正確に静的触診を行うことができるようになります。

静的触診での4つの確認

静的触診には、4つ確認するポイントがあります。この4つの確認には、浅層部と深層部の2種類の静的触診を行います。浅層部では、浮腫の確認と肌の質感と温度の確認を行い、深層部では、張り感や脱力感と圧痛の確認を行います。

1.浮腫の確認
スポンジ状浮腫(ぶよぶよ感)

サブラクセーションが存在している部位は、浮腫が現れてきます。浮腫とは、足首を捻挫した時に現れる腫れをイメージしてみてください。足首の捻挫によって患部が損傷し、炎症が起きます。

その炎症は、損傷した組織の修復を高めるために代謝が向上しています。脊椎でも同様に、椎間板が損傷し、椎間関節に負荷がかかることによって患部の保護や修復を行う為に浮腫が現れます。このスポンジ状の浮腫は、主に棘突起上、または棘突起の下端、両側移行椎(隆椎、T12)、仙骨にぶよぶよした水風船のような張り感を持つ浮腫が現れます。

くぼんだ浮腫(落ち込み感)

もう1つの浮腫は、慢性的な神経供給の減少により組織のコラーゲン損傷で起こります。主に胸部から腰部の傍脊柱筋群(通常は片側のみ)、PSIS関節付近に現れます。

例えば、下の図のようにPI腸骨は、PSIS関節上部に浮腫が現れ、AS腸骨は、PSIS関節下部に浮腫が現れます。このくぼんだ浮腫の感じは、ちょうど手を強く握りしめてこぶしを作り、親指と人差し指のつけ根のやわらかい部分の張り感が正常な組織としたら、こぶしを緩めた時の親指と人差し指のつけ根のやわらかい部分の脱力がくぼんだ浮腫の感覚となります。

両側にくぼんだ浮腫が確認された場合は、単に菱形筋(胸椎5番)や僧帽筋(胸椎12番)の付着部になるので注意しましょう。

2.肌の質感と温度

正常な肌は、全体にスムーズで滑らかな質感が確認されます。部分的に張り付くような質感が確認された場合は、浮腫や熱や発汗などの急性の問題が考えられます。

反対にカサカサして上皮の油分が失われ乾燥している質感は、慢性の問題が考えられます。体表温度の測定は器具を使って局部的に行いますが、手のひら全体を使って上下左右の上皮の温度を感じることで全体像を把握することが可能になります。

3.張り感と脱力感の確認

上下左右で筋肉の弾力性の確認を行います。ここで重要なことは、単に筋の異常を触診するだけでなく、浮腫の種類の確認を行うことが重要になります。浮腫は、人それぞれの弾力性が異なるため、患者様それぞれの浮腫を区別することが大切になります。

張っている筋肉に存在するぶよぶよした浮腫であれば、より張り感の強い浮腫が確認されますし、脱力している筋肉に存在するぶよぶよした浮腫であれば、より柔らかい浮腫が確認されます。このように同じ浮腫と言ってもその感覚は患者さまにより異なるので、筋肉の張り感と脱力感をしっかりと触診することが重要です。

4.圧痛の確認

サブラクセーションが存在する個所には、浮腫が存在しています。その浮腫を軽い圧で押すことで圧痛が確認されます。急性の問題であればあるほど、圧痛は感じやすくなりますが、ガンステッド・カイロプラクティックにおいて、過剰な痛みが出ている棘突起や張り感の強い場所は補正(カンパンセーション)している部位として考えられます。軽く触って痛みが出る棘突起や組織が緩んでいる場所にサブラクセーションは存在しています。

(2)動的触診

2つ目の触診法は、動的触診になります。動的触診とは、体表温度の測定によって見つけられた各脊椎のどこにアジャストメントを行うか決定する唯一の手段になります。サブラクセーションの兆候である、運動病理の検査を行うのが動的触診で様々な方向に体を動かしながら脊椎や骨盤の動きの確認を行います。

動きが制限されている場所をカイロプラクティック用語では、フィクセーション(Fixation)と言います。まず、土台のバランスの乱れや外傷によって椎間板が損傷します。その損傷した椎間板の修復のため代謝が向上し膨張することで、椎骨の全体的な可動性が制限されます。

また、慢性化してくると髄核が椎間板の中心から前方へ変位し、組織の損傷により炎症性の浮腫が現れ、椎骨の全体的な動きが更に制限されていきます。これがフィクセーションの始まりになります。

反対に可動性が増大している場所の見極めのため動的触診は重要です。例えば、亜脱臼、骨折、関節包や靭帯の過伸張、筋の弱化によって可動性が病理的に増大することがあります。また、妊娠することでお産に向けて骨盤や背骨の可動域が増大している場合もあります。

カイロプラクティックでは、サブラクセーションによって可動域が失われた椎骨や骨盤を補うために他の部位で可動域が増大し、体のバランスをとる補正作用(カンパンセーション)が起こります。

この補正作用によって可動域が増大している場所を動的触診によって検査することも重要になります。この2種類の動的触診の技術を習得することでどの部位をアジャストメントするべきか、するべきではないのかを区別することが可能になります。また動的触診は、アジャストメントの効果を再確認する場合の施術後のチェックにも行われます。

場所の確認(ランドマーク)

動的触診を行う前に、背骨の位置を正しく理解する必要があります。まず、頚部の確認で重要なランドマークは、後頭部で隆起しているEOP(外後頭隆起)になります。EOPから触診している指を下の頚部へと滑らします。最初に隆起している骨にあたる部分が頚椎2番の棘突起の上部になります。

次に確認を行うのが、頚椎6番と頚椎7番です。頚椎7番は、隆椎と言われていて、頚部を屈曲した時に1番隆起する椎骨になります。約7~8割の頚椎7番が隆椎として確認され、2~3割の胸椎1番が隆椎になります。

頚椎6番と7番の区別は、可動域の違いにあります。頚椎6番は、より頚椎に近い可動域の性質を持ち、頚椎7番はより胸椎に近い可動域の性質を持つので、その違いによって頚椎6番と7番の区別を行います。

通常、頚椎3番と4番は、棘突起が小さく、頚部の前湾カーブの存在により場所の特定は困難になります。胸椎の確認で重要なランドマークは、肩甲棘と肩甲骨の下角になります。

肩甲棘のラインに胸椎3番が位置し、座位や立位時での肩甲骨下角のラインに胸椎7番が位置しています。腰部の確認で重要なランドマークは、胸椎12番と腰椎1番の棘突起の形状です。

腰椎1番の棘突起は、アイススケートの刃のように平らで大きな形状をしているのに対して胸椎12番は、小さな棘突起の形状をしています。

その棘突起の形状の違いを区別することで胸椎12番と腰椎1番の確認を行います。また、腰椎の確認では、両方の腸骨稜の上端部分に腰椎4番の棘突起が位置しています。このように脊柱全体のランドマークを把握することで、どの椎骨の可動域が制限しているのかをしっかりと特定することが可能になります。

動的触診での2つの確認

動的触診には、初動(動き始め)を確認する方法と、最終可動域(動き終わり)を確認する2種類が存在しています。より正確な動的触診を行うためには、確認したい椎骨以外の可動を最小限にする必要があるため、ガンステッド・カイロプラクティックでは、初動での動的触診が重要視されています。

最終可動域の動的触診だけでは、確認したい椎骨以外の可動域まで関与してくることや、骨の形状が関与してくる場合が多いので、正確に検査することが困難になります。

また、急性患者のような重度の痛みを伴う場合、最終可動域まで動かすことが困難になるので初動での動的触診を習得することが重要になります。

動的触診のコツとして、まず力を使わないで行うことが大切になります。力が入ることによって患者様に不安感を与えることになるので常にリラックスした状態で、安心感を与えられるような触診を心がけましょう。また、常に両手を使って触診する癖をつけましょう。

触診している反対の手でも患者様をしっかりと固定することで安定した触診ができるようになります。手の指をすべて使うことも忘れてはいけません。人差指で触診しているのであれば、中指は人差指の上に重ねるように保持します、その他の指は患者様の体表に置くことで、動的触診時のブレを防ぐことができます。

実際に患者様を動かすときは、言葉で誘導することが大切になります。特に初診で来院された患者様は何をされるかも理解できていません。丁寧な言葉で案内することで、患者様に安心感を与えると同時に、術者の余計な力を加えることなく触診を行うことが可能になります。

執筆者塩川 雅士D.C.

1980年、東京都生まれ。17才で渡米後、2004年パーマーカイロプラクティック大学を優等で卒業。D.C.の称号取得。米国ナショナルボード合格。日本カイロプラクティックリサーチ協会(JCRA)役員。2005年からカイロプラクターを育成する学校の運営と講師に携わり、現在、年間約300時間の講義やセミナーなどの活動を全国で精力的に行っている。

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