解剖学的観点から学ぶ浮腫感とは?
今回のコラムでは、肌の質感や浮腫感と言った皮膚における変化を解剖学的視点から解説していきます。肌に質感や浮腫感の特定には、触診高い技術と経験が必要になります。言葉では、理解していても実際に触診してみるとなかなか見分けることが難しくなります。
今回のコラムでは、具体的に浮腫が起きている場所や肌の質感がなぜ起こるのかを解剖学も交えながら詳しく解説していきます。触診が上達するためには、1番にイメージしながら行うことになります。まず、イメージするためには、浮腫が起きているまでのメカニズムや解剖学を学んでいきましょう。
皮膚の状態を検査する重要性
シオカワスクールで行っているカイロプラクティック・システムでは、皮膚の状態から様々なサブラクセーションの兆候を分析し、問題の根本原因の特定を行います。サブラクセーションを特定する際に多くの重要な情報を与えてくれます。システムでは、皮膚の状態を視診や静的触診といった検査で行います。皮膚の状態は、“目に見える臓器”と言われているくらい重要になります。
皮膚の状態を検査する視診や静的触診を習得することは、サブラクセーションの特定に確信が持て、アプローチの区別が明確になり、なによりアジャストメント後の評価も可能になり、最短で結果に繋げることができます。
浮腫が起きるまでのメカニズム
サブラクセーションが発症すると様々な兆候が現れてきます。まず、椎骨や骨盤の可動性が低下し背骨や骨盤の柔軟性が消失する運動病理が現れます。その状態が長く続くとで、肌の黒ずみや肌の代謝が低下することでカサカサ質感などの変化に繋がります。
また、可動性が低下する場所に対してバランスを保つために補正作用というものが生じます。この補正作用が起きている場所の多くは、可動性が過剰になり、炎症を誘発し体表の温度の変化も現れます。
次に、神経病理といった、上皮に存在する血管の拡張や収縮の異常が生じます。血管の拡張や収縮に異常が生じることで、体表の温度に誤差が生じます。血管の拡張は、体表温度を高め、収縮は体表温度を低くさせ、皮膚の様々な変化に繋がります。
更に、サブラクセーションの状態が慢性化すると、患部の炎症や膨隆や圧痛などが軟部組織に問題が現れる組織病理へと繋がります。損傷した患部に対して浮腫が現れます。浮腫とは、炎症反応によって損傷した組織の修復を高めるために代謝が向上している部位になります。
このように、実際に浮腫が起きるまでには、様々な兆候が現れてきます。その1つ1つの兆候をしっかりと区別して浮腫を特定すれば、高い触診技術の習得に繋げることが可能になります。では次に、皮膚の解剖学を学びながら、浮腫をイメージしていきましょう。
皮膚の3層構造とは?
皮膚には、体の表面を覆う表皮、その下に真皮、そして皮下組織の3層構造になっており、体重の約15%を締めています。主な皮膚の役割は、体内の水分調整、体温の調整、外の刺激の感知、細菌やウィルスから体を守るなどがあります。
表皮
表皮は、厚さが約0.03~0.05mmのとても薄い膜になり、ちょうど食品用のラップと同じくらいの厚さになります。表皮は4層構造になっており、レンガ状に積み重なっています。下の層から新しい細胞が作られ、順番に積み重なって、1番外側の角質層を作っています。角質は、約45日のサイクルで剥がれ新たな角質として生まれ変わります。
表皮では、体内の水分が外へ失われていくのを防ぎ、外からの刺激をブロックする役割があります。アトピー性皮膚炎では、表皮のバリア機能に異常があり、外からの異物が侵入するなどの刺激によって炎症が起こりやすくなります。表皮は、細菌やウィルスの侵入を防ぐ最初のバリアになり、体にとって重要な役割があります。
しかし、慢性的な神経機能の低下(サブラクセーション)によって真皮に存在している血管の損傷が起きます。その結果、十分な栄養を表皮に運ぶことが困難になり、潤いを蓄える力が衰え乾燥しやすいカサカサした状態になり、肌に質感にも影響を与えます。
また、慢性的な血管の収縮によって、血管にストレスが加わることで、皮膚に存在する毛細血管の損傷による点状出血や静脈瘤やメラニン色素の欠乏による肌の斑点などの原因にも繋がります。
このように、表皮における様々な皮膚の問題の多くは、神経機能の異常によって起きます。そのため、体の内側で起きている問題は、皮膚に現われてきます。その皮膚の現れた体からのシグナルに対してガンステッド・カイロプラクティックでは、視診や静的触診検査を重要視しています。
真皮
真皮は、3層から構成され、弾力のある繊維と毛細血管や神経が通っています。真皮には、触った、熱い、冷たい、痛いなどのセンサーとなる神経があります。また、熱い時には、汗をかいて体温をさげ、寒い時には、筋を震わせ寒さを防いてくれます。表皮への酸素や栄養の供給も行っています。
真皮は、60〜80%は水分のヒアルロン酸と水分を保持するコラーゲン繊維で構成され、毛細血管も多く通っています。コラーゲンを作り出す細胞の動きが悪くなると、表皮で水分を維持できなくなり、シワや肌の凹凸に繋がります。
皮下組織
皮膚の1番下に位置している部分が皮下組織になります。表皮と真皮を支えている重要な組織となります。皮下脂肪には、多くの脂肪を含んだ組織で、血管、神経、汗腺などを保護しています。まさに、クッションの役割や断熱と蓄熱といった保温機能もあります。
皮下組織に厚みは、頭部や額や鼻などで約2㎜と薄めですが、その他の大部分は4mmから9mmになります。多くの血管が通り血液は体温調整と栄養を運び、脂肪細胞が体温を維持します。毛細血管から栄養を運び、血管のない表皮まで循環するという役割があります。
2種類の浮腫
(1)くぼんだ浮腫感
静的触診でのくぼんだ浮腫感は、慢性的な神経伝達の供給の減少によって組織のコラーゲンが損傷し発症します。感覚としては、手を握ってもらって人差し指と親指の間を押してもらうと反発する様な弾力がありますが、握る力を抜いてもらうと中に入り込む様にくぼんでしまいます。これがくぼんだ浮腫感になります。
このくぼんだ浮腫は、傍脊柱起立筋、棘突起と起立筋肉の際に現れてきます。多くの場合は片側のみに現れますが、両側に現れるケースもあります。
(2)ぶよぶよした浮腫
静的触診で多く確認される、ぶよぶよした浮腫感は、椎間板や椎間関節への負荷による様々な組織へ損傷によって炎症が起こります。その炎症は、損傷した組織の修復を高めるためのものであり、体の正常な防御反応と自然治癒力になります。
患部が炎症している場合は、表皮への代謝が高まり、栄養成分が真皮で集まり、ぶよぶよした浮腫として確認できるようになります。すなわち、体の内側で起きている問題の多くが皮膚の表皮や真皮で確認することが可能になります。
ぶよぶよした浮腫感の感覚としては、水風船のような液体を多く含んだような弾力のある浮腫が確認されます。脊柱では、棘突起上や棘間や棘突起の下端に確認され、骨盤では、仙骨翼や仙結節に確認されます。浮腫の大きさは、急性度合いや骨の大きさによって異なります。
質感は、急性であれば炎症と脂分を多く含み、汗ばんでいるような感覚になります。静的触診時に指先がスムーズに肌をなぞることが困難になるのが特徴になります。
慢性化した場合は、組織の治癒と損傷が繰り返されます。その結果、患部を補強する為に硬い瘢痕組織が作られます。瘢痕組織が含まれる浮腫には、弾力を伴う質感となります。
このようにぶよぶよした浮腫を特定するためには、必ず上下左右で比較し、大きさや形状を1人1人しっかりと確認することが重要になります。
静的触診の重要性
静的触診は、サブラクセーションを見つけるためだけの評価ではありません。静的触診は、先生が正しいアプローチを行っているか、正しくアジャストメントが行われたかを評価することにおいて最も重要な要素になります。
体にとって、正しい事を行えば正しい結果が見込めますし、間違った事を行えば、間違った結果になります。そのための評価として静的触診は、非常に重要な要素になります。
体表の凹凸、肌の質感、温度(熱感&冷感)、しこり、筋肉の硬直、腫れ、炎症、圧痛などの軟部組織の異常の確認を行います。静的触診を訓練する際に大切なことは、まず正常な組織を知ることです。正常な組織が理解できて初めて異常に気付くことができます。
是非、今回のコラムを参考にして頂き、浮腫のメカニズムや解剖学をイメージして触診検査向上に繋げて頂けたらと思います。